福岡高等裁判所 平成元年(ネ)417号 判決 1992年12月21日
第四五九号事件控訴人・第四一七号事件被控訴人(以下「一審原告」という。)
高田二郎
右訴訟代理人弁護士
宗藤泰而
同
前田憲徳
同
三浦久
同
吉野高幸
同
住田定夫
同
配川寿好
同
江越和信
同
荒牧啓一
同
河邉真史
同
年森俊宏
同
佐藤裕人
第四一七号事件控訴人・第四五九号事件被控訴人
朝日火災海上保険株式会社
(以下「一審被告」という。)
右代表者代表取締役
越智一男
右訴訟代理人弁護士
杉山克彦
同
山本孝宏
同
狩野祐光
同
太田恒久
同
河本毅
同
寺前隆
同
和田一郎
主文
一 一審原告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
二 一審被告は一審原告に対し、金二九〇万〇〇二八円及び内金一三二万五二二八円に対する昭和六一年一〇月七日から、内金一五七万四八〇〇円に対する平成元年八月一日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三 一審原告の、当審で拡張、追加した請求を含め、その余の請求を棄却する。
四 一審被告の控訴を棄却する。
五 訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを五分し、その一を一審被告の負担とし、その余を一審原告の負担とする。
六 この判決は、一審原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(第四五九号事件)
一 控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 一審原告が、一審被告に対し労働契約上の権利を有することを確認する。
(一審原告は、当審において、本訴のうち、右確認請求に係る部分を取り下げるとしたが、一審被告は、これに同意しなかつた。)
3 (原審請求の趣旨2の拡張)
一審被告は一審原告に対し、金二八〇二万五〇一四円及び内金一一一八万〇三六六円に対する昭和六一年一〇月七日から、内金九七四万〇七九八円に対する昭和六三年七月一四日から、内金七一〇万三八五〇円に対する平成元年一二月二二日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
4 (当審における追加的変更)
一審被告は一審原告に対し、金三三九万二四〇〇円及びこれに対する平成元年八月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は、第一、二審とも、一審被告の負担とする。
6 仮執行の宣言
二 控訴の趣旨に対する答弁
一審被告は、一審原告の当審における訴えの追加的変更(控訴の趣旨4)について後記のとおり本案前の抗弁を述べたほか、次のとおりの判決を求めた。
1 一審原告の控訴及び当審で拡張、追加した請求をいずれも棄却する。
2 控訴費用は一審原告の負担とする。
(第四一七号事件)
一 控訴の趣旨
1 原判決中、一審被告敗訴の部分を取り消す。
2 一審原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも、一審原告の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 一審被告の控訴を棄却する。
2 控訴費用は一審被告の負担とする。
第二当事者の主張
一 原判決の事実摘示を、次のとおり付加し、改めた上、引用する。
1 原判決一五枚目裏三行目の「訴外浅田」を「訴外朝田」と改め、一九枚目表六行目の「改訂」の前に「と」を加え、二〇枚目裏九行目の「支部員」を「支部組合員」と改め、二三枚目表一一行目の「営業員」を「営業職員」と改め、二九枚目裏一〇行目の「七億七千万円」を「一七億七千万円」と改める。
2 同三九枚目表五行目の「一般的拘束力排除の合意」を「適用除外の合意」と、一二行目の「一般的拘束力を排除する旨の合意」を「組合員、非組合員を問わず、本件労働協約の不利益変更規定に異議を唱えた者には、右規定は直ちに適用されず、それらの者が会社との個別交渉により従前の有利な労働条件を維持することを妨げないという趣旨の合意」と改める。
二 一審原告が拡張、追加した請求の原因
1 (控訴の趣旨3関係)
(一) 一審原告は、昭和六三年一二月一〇日六三歳に達し、及鉄道保険部労働協約二三条にいう「当該従業員が満六三歳に達した翌年度の六月末日」は平成元年六月三〇日に到来した。
一審原告は、右同日、一審被告に対し、満六五歳まで勤務できる権利を放棄して退職する旨を通知した。
(二) 一審原告は、一審被告の従業員として、昭和五七年度において月額三九万七一五四円の給与、一〇二万五二八〇円の夏期賞与(六月臨給)、一〇七万一〇九六円の冬期賞与(一二月臨給)、三八万八七八〇円の春期賞与(三月臨給)、二五万円の賞与追給の合計七五〇万一〇〇四円の支払を受けていた。
したがつて、一審原告が昭和五八年四月一日以降右退職の日まで一審被告の従業員としての地位を有していたとすれば、その間に、ベースアツプ、昇給等がないとしても、四七二二万二七六六円の給与等の支払を受けたはずである。
(三) よつて、一審原告は一審被告に対し、右四七二二万二七六六円から既払金一九一九万七七五二円を控除した差額二八〇二万五〇一四円及び内金一一一八万〇三六六円に対する弁済期後の昭和六一年一〇月七日から、内金九七四万〇七九八円に対する弁済期後の昭和六三年七月一四日から、内金七一〇万三八五〇円(拡張部分)に対する弁済期後の平成元年一二月二二日から各完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 (控訴の趣旨4関係)
(一) 一審被告においては、昭和四六年一〇月一日、次のとおりの内容の退職金規定が制定された。
(1) 勤続三〇年以上の従業員に対しては、「退職の時の本俸月額」に七一を乗じた額を退職手当として支給する(第三条)。
(2) 退職手当は、従業員の退職後一か月以内に通貨をもつて支給する(第一〇条)。
(二) 右退職金規定によれば、一審原告が受けるべき退職手当は、昭和五七年度の本人給一五万四九〇〇円、職能給一五万三五〇〇円合計三〇万八四〇〇円に七一を乗じた二一八九万六四〇〇円となる。
(三) よつて、一審原告は一審被告に対し、右退職金二一八九万六四〇〇円から既払金一八五〇万四〇〇〇円を控除した差額三三九万二四〇〇円及びこれに対する退職の一か月後の平成元年八月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 一審被告の本案前の抗弁及び認否
(本案前の抗弁)
一審原告が当審においてした右二の2の原因に基づく訴えの追加的変更は、一審被告の審級の利益を侵害し、かつ、請求の基礎の同一性を欠くもので、不適法である。
(認否)
1 右二の請求原因の1(一)は認める。
2 同1(二)のうち、一審被告が一審原告に対し、昭和五七年度にその主張の給与及び賞与を支払つたことは認め、その余は否認する。
3 同2(一)は認める。
4 同2(二)は争う。
四 一審被告の抗弁
1 一審被告は、昭和五八年七月一一日、訴外組合との間で本件労働協約を締結した上、本件就業規則を制定し、従前の労働協約及び就業規則を改訂した。
2 改訂事項のうち、退職金に関する部分の要旨は次のとおりである。
(一) 退職手当規定の基準支給率を現行の「三〇年勤続七一か月」から「三〇年勤続五一か月」に改訂するが、経過措置として昭和五八年度は六〇か月とする。
(二) 退職金算出の基礎額を、現行の昭和五三年度の本俸から、各年度の基本給(本人給と職能給を合わせたもの)に改訂する。
(三) 定年制の改訂をも合わせ、改訂についての代償金を支払う。
3 本件労働契約は、<1>包括的合意若しくは確立した労使慣行、又は<2>労働協約の一般的拘束力により、一審原告に対しても拘束力があり、仮に、そうでないとしても、一審原告は本件就業規則の適用を受ける。
4 一審被告は一審原告に対し、本件労働協約又は本件就業規則に基づき、一審原告の昭和五七年度の基本給三〇万八四〇〇円に六〇を乗じた金一八五〇万四〇〇〇円の退職金を支払つた。
よつて、一審原告の退職金は、全額支払済みである。
五 一審原告の認否
1 一審被告の抗弁の1及び2は認める。
2 同3は否認する。
3 同4前段は認める。
六 一審原告の再抗弁
本件労働協約には、「本件労働協約を締結しても、退職金規定の改定について個人が同意しなければ、その個人については従来どおりの権利が残る。」との特約が付されていたのであり、これにより、本件労働協約は、締結当事者間において、組合員、非組合員を問わず、本件労働協約の不利益変更規定に異議を唱えた者には、右規定は直ちに適用されず、それらの者が会社との個別交渉により従前の有利な労働条件を維持することを妨げないという趣旨の合意がされていたものであるところ、一審原告は、本件労働協約の不利益変更規定に不同意であるから、本件労働契約による退職金規定の改訂の効力は一審原告には及ばない。
七 一審被告の認否
再抗弁は否認する。
第三証拠
原審及び当審の記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一 労働契約上の権利を有することの確認請求及び給与等の支払請求(追加的請求に係る退職金請求については後記。)について
一 当裁判所も、一審原告の一審被告に対する請求中、一審被告に対し、労働契約上の権利を有することの確認を求める請求は理由がなく、給与等の支払請求は、一三二万五二二八円及びこれに対する昭和六一年一〇月七日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないと認定、判断する。その理由については、次のとおり改め、付加した上、原判決の理由説示を引用する。
1 原判決四一枚目表末行の「<証拠略>、」の後に「<証拠略>、」を、裏三行目末尾の後に「<人証略>及びこれにより真正に成立したものと認められる<証拠・人証略>、」を加える。
2 同四二枚目裏四行目の「とする。」を「とし、加盟各社は、右代表幹事会社の鉄道運送保険部をして保険契約の締結、保険料の受領、保険金の支払、その他一切の業務を一括して処理させる。」と改め、五行目の「人員を」の後に「その」を、六行目の「雇用する。」の後に「この社員又は嘱託は、共同保険事務に専従させ、その経費は別勘定として左記の予算に計上する。」を加え、九行目の「共同保険の」から一〇行目の「損保元受各社」までを「鉄道運送保険部は、その事務処理に必要な経費につき、一年ごとに予算を作成して加盟各社の承認を受ける。承認を受けた経費は加盟各社」と改める。
3 同四三枚目裏九行目から一〇行目にかけての「形式的には同社の組織の中に鉄道保険部があつたが、」を「鉄道保険部は、形式的には同社の組織の中にあつたが、」と、一一行目の「管理下」から一二行目末尾までを「管理下にあり、部長、次長、支部長などの職制が敷かれ、部長は、鉄道保険部の全業務を統轄し、部員を指揮監督すると定められていたが、鉄道保険部職員の採用は部長の承認によつて行われ、定年延長は部長がその要否を考査するとされ、また、鉄道保険部職員との協約には使用者側として部長が調印するなど、人事その他について広範な権限を委任されていた。」と改める。
4 同四四枚目表七行目及び末行の各「実質上の使用者である鉄道保険部(部長)」を「鉄道保険部長」と改め、九行目の「就業規則等」の後に「は」を加え、裏初行の「鉄道保険部」を「鉄道保険部長」と改め、一一行目の「次いで、」から四五枚目表六行目までを、次のとおり改める。
「その後昭和三七年三月、当時鉄道保険部次長であつた訴外鶴岡寿は、満六〇歳に達し、右就業規則によれば定年となるところから、興亜火災に就業規則の改訂を要請し、右就業規則三八条が、『従業員の停年は満六三歳とする。但し、会社において必要と認めたときは二年間延長することがある。』と改訂された。興亜火災鉄道保険部と旧鉄道保険支部との間には、昭和三一年一〇月二七日付けの『就業規則等の実施に伴う協約書』が存在し、その第一条に、『興亜火災鉄道保険部は、就業規則、給与規程、退職金規程の改廃を行うときは、予め旧鉄道保険支部と協議しなければならない。』との定めがあつたが、旧鉄道保険支部も右改訂を了承し、右就業規則により六三歳定年制が発足した。
同年一一月一日興亜火災鉄道保険部と旧鉄道保険支部との間に労働協約が締結されたが、その第二三条には、『従業員の停年は満六三歳とし、当該従業員が満六三歳に達した翌年度の六月末日までとする。但し、会社が必要と認めたときは二年延長することができる。』と定められた。」
5 同四六枚目表七行目から八行目にかけての「実質上の使用者であつた鉄道保険部(部長)」を「鉄道保険部長」と改め、九行目から一〇行目にかけての「鉄道保険部(部長)」を「興亜火災の委任を受けた鉄道保険部長」と改め、裏初行の「できない。」を「できず、使用者である興亜火災と旧鉄道保険支部との間の就業規則及び労働協約として有効に存在したものというべきである。」と改める。
6 同四八枚目表八行目の「鉄道保険部(部長)」を「鉄道保険部長」と、一〇行目の「委ねられ」を「委任され」と改める。
7 同五〇枚目表一〇行目の「<人証略>」を「<人証略>」と、裏九行目の「損害保険会社」から五一枚目表六行目までを「鉄道保険部の人的、物的機構が一つの企業体として独立するか、又は、鉄道保険部職員全員が興亜火災との労働契約を解約し、ある損害保険会社との間に労働契約を締結し、かつ、損保元受各社の所有である物的機構をその損害保険会社に譲渡することが考えられるようになり、損害保険会社数社との折衝などを経た後、結局、一審被告会社との間で後者の方途を採ることになり、この方途を採ることが関係者の間で、鉄道保険部と一審被告会社との合体と呼称されるようになつた。右合体に関する一審被告会社との折衝のうち、鉄道保険部職員全員が一審被告会社との間に労働契約を締結するに当たつての諸条件の取決めについては、興亜火災は鉄道保険部長に一任した。」と改める。
8 同五二枚目表五行目の「鉄道保険部」を「鉄道保険部長」と、六行目の「同年」を「昭和四〇年」と、裏一〇行目の「鉄道保険部」を「興亜火災鉄道保険部と呼称する同社以下損保元受一九社の共同保険取扱機関(覚書の署名者は鉄道保険部長)」と改める。
9 同五六枚目表二行目の「権限を有していた鉄道保険部」を「権限を興亜火災から授与されていた鉄道保険部長」と改める。
10 同五七枚目裏一一行目の「国鉄物件」を「国鉄に関連する保険契約」と改める。
11 同六四枚目裏一二行目の「認められを」を「認められる」と改める。
12 同六九枚目表一二行目の「新人事諸制度」を「人事諸制度」と改める。
13 同七二枚目表四行目の「再審」を「再審査」と改める。
14 同七八枚目表四行目の「同月一二日」の後に「に」を加え、裏三行目の「(国鉄永退社員を除く)」を削除する。
15 同八五枚目表末行の「満五七歳の者」の後に「(一審原告を含む。)」を加える。
16 同八六枚目裏六行目から七行目にかけての「原告」を「一審原告及び訴外石堂正彦」と改める。
17 同八七枚目表八行目の「満六三才」の後に「に」を加える。
18 同九〇枚目裏五行目の「、<証拠略>」の前に「<証拠略>、」を加え、七行目から八行目にかけての「<証拠略>、」を削除する。
19 同九四枚目表七行目の「抗弁2(二)の事実のうち、」から裏二、三行目の「原告ら」までを「成立に争いのない<証拠略>及び原審における一審原告本人尋問の結果によれば、本件労働協約が締結された昭和五八年七月一一日当時、一審原告が勤務していた一審被告会社九州営業本部北九州支店の従業員数は一六名で、営業担当調査役の一審原告」と改める。
20 同九八枚目裏初行の「昭和」から三行目の「就業規則(内規)が」までを「前記認定のとおり、昭和三七年ころ、当時鉄道保険部職員の多数を占めていた高齢の国鉄永退社員が、定年制を切実な問題として興亜火災と協議し、それまでに制定されていた六〇歳定年制でもなお低きにすぎるとし、更に出身母体である国鉄からもその旨の要請があり、一般従業員について五五歳定年制を採つていた興亜火災も、右国鉄永退社員の年齢、境遇の特殊性にかんがみ、六三歳定年制を採ることを容認し、その旨就業規則(内規)を改訂したが、昭和三七年一一月一日に締結された旧鉄道保険部労働協約には右定年制がそのまま採り入れられ、」と改める。
五行目から六行目にかけての「ものではない」を「ものではなく、また、その沿革に照らすと、旧鉄保プロパー社員への適用を念頭に置いて発足した定年制ではないことがうかがわれる」と改める。
一〇行目の「経緯等」の後に「、とりわけ、本件労働協約の締結に当たり、訴外組合の常任支部闘争委員会は非組合員に対し、昭和五八年三月七日付けの『停年・退職金問題について』と題する手紙を送り、執行部案についての意見を求め、更に訴外組合は同月一七、一八日の両日にわたり、鉄道保険部出身の従業員の代表一四名と話し合い、その意見を聴取し、執行部案についての理解を求めたこと、本件労働協約の協定書は、経過措置の対象者及び代償金の支払対象者の中に、一審原告を明示した上、調印に至つていること」を加える。
一一行目の「不当」の後に「と」を加える。
21 同一〇三枚目裏五行目の「<証拠略>」を「<証拠略>」と改め、六行目から七行目にかけての「成立に争いがない<証拠略>及び」を削除する。
22 同一一三枚目表八行目の「<証拠略>、」を削除し、九行目「争いがない甲」の後に「<証拠略>、」を加える。
23 同一一五枚目表一〇行目の「まず、」から一一六枚目裏九行目末尾までを、次のとおり改める。
「 (証拠・人証略)及び原審における一審原告本人尋問の結果によれば、一審原告は、同年四月一日以降七月一一日までの間、一審被告会社北九州支店に社員として勤務し、業務に従事していたことが認められ、右の事実並びに本件労働協約は、一審原告の同意がなく、労働協約の一般的拘束力により一審原告に効力が及ぶとされるものであることを考慮し、かつ、労働基準法二〇条が、使用者が労働者を解雇しようとする場合に三〇日以上の予告期間を置くべきことを定めていることの趣旨等を考慮すると、本件労働契約中の、五七歳定年制を昭和五八年四月一日に遡つて施行する旨の規定の効力は、一審原告には及ばないと解するのが相当である。
なお、成立に争いのない(証拠・人証略)及び原審における一審原告本人尋問の結果によれば、一審被告会社は、九州営業本部の佐々木本部長が昭和五八年四月四日一審原告に面談し、定年制に関する訴外組合との交渉が妥結する見込みであると説明し、人事部長が同月一八日付けで、労使交渉が詰めの段階にあるが、最終合意となれば、一審原告の四月分給与は特別社員としての給与になる旨記載した『四月分給与について』と題する書面を送付した事実のほか、後記三2(五)記載の各事実が認められるが、右の各事実を考慮しても、昭和五八年七月一一日以前の時点に一審原告が定年退職したものとして取り扱うことが相当であるとは認め難い。」
24 同一一七枚目表末行の「一般的拘束力排除の合意」を「適用除外の合意」と改め、裏九行目の「<証拠略>」の後に「<証拠略>、」を加え、一二行目の「<証拠略>、」を削除し、末行の「<人証略>、」の後に「<人証略>」を加える。
25 同一一八枚目表九行目の「既得権の額」を「既得権に対する代償金の額」と改める。
26 同一一九枚目表一行目の「一組合員」を「組合員の訴外石堂正彦」と、裏末行の「整理作業行つたところ」を「整理作業を行つたが」と、末行から一二〇枚目表初行の「発言の記載はなされなかつた。」を「発言については記載されず、協定書には、経過措置の対象者及び代償金の支払対象者中に、一審原告や訴外石堂正彦が明示された。」と改める。
27 同一二一枚目表一〇行目から一一行目にかけての「(一人一人の権利を留保する)」を「『一人一人の権利を留保する』」と、裏初行の「事実によれば」を「事実及び前記のとおり、本件労働協約の協定書は、経過措置の対象者及び代償金の支払対象者中に一審原告や訴外石堂正彦を明示した上、調印に至つていることに照らすと」と改める。
28 同一二二枚目表四行目の「特約」を「特約ないし合意」と改め、裏八行目の「支給される」の後に「の」を加える。
29 同一二三枚目表八行目の「減額」の前に「に」を加える。
30 同一二四枚目表一〇行目から一一行目にかけて及び裏三行目の「民法所定年五分」を「商事法定利率年六分」と改める。
二 したがつて、一審原告が、一審被告に対し労働契約上の権利を有することの確認を求める請求は失当であり、一審被告に対し、その従業員として昭和五八年四月一日から平成元年六月三〇日までの間に受けるべき給与等と既払金との差額の支払を求める請求は、一三二万五二二八円及びこれに対する昭和六一年一〇月七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であり、その余は失当である。
第二 退職金請求について
一 一審被告の本案前の抗弁について
一審原告の従前からの請求である給与等の支払請求と当審において追加した請求である退職金請求は、いずれも一審原告と一審被告との労働契約に基づく請求である。しかも、退職金規定の改訂を含む本件労働協約等の効力が一審原告に及ぶか否かの点がもともと本件訴訟の審理の主たる争点であつたことは明らかであつて、両請求とも(地位確認請求についても同じ。)右主要争点に関連する一審原告の定年退職時期いかんに大きくかかわるものである。したがつて、右各請求は、請求の基礎に同一性があり、一審原告が当審において退職金請求に及ぶこととした訴えの追加的変更は適法というべきである。
二 本案について
1 一審原告が当審において追加した請求の原因(事実欄第二の二の2)の(一)の事実及び一審被告の抗弁1及び2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
2 そこで、一審被告の抗弁3について判断する。
(一) 本件労働協約が、労使間の包括的合意若しくは確立した労使慣行により、一審原告に対して拘束力があるとの主張については、先に補正の上引用の原判決九〇枚目表八行目から九四枚目表三行目までの説示と同一の理由により肯認することができない。
(二) 本件労働協約が労組法一七条の規定により一審原告に適用される旨の主張及び一審原告は本件就業規則の適用を受けるとの主張について検討するに、本件労働協約の締結及び本件就業規則の制定に至る経過として、同じく原判決六四枚目表一二行目から八九枚目表初行までに記載の各事実が認められるほか、(証拠・人証略)及びこれにより真正に成立したものと認められる(証拠略)によれば、次の事実が認められる。
(1) 一審被告会社は、昭和四六年一〇月一日退職金規定を改訂し、新たに勤続期間三〇年の退職者に支給する退職金を本俸の七一か月分と定めた。
(2) 右改訂は、本俸の賃上げ率が各年六パーセント程度であり、定年退職金支給額が一三〇〇万円ないし一五〇〇万円程度との見込みの下に行われたもので、将来退職金が二〇〇〇万円を超えるような事態になれば、算定基準の見直しを要するとすることについては、訴外組合も同意見であつた。
(3) その後の各年の賃金上昇の状況は、昭和四六年を一〇〇とした場合、昭和四九年は一八七・八、昭和五〇年は二〇五・六、昭和五二年は二三四・四であり、当初見込みのとおり各年六パーセントの上昇であれば、昭和五二年は一四一・九であるべきことや、大蔵省の検査の際、この状態が続けばいずれは退職金倒産となるであろうと指摘されたことから、右退職金規定の改訂は是非とも必要とされるとともに、前記のとおり労使間の合意により、昭和五四年度以降は、退職金規定の改訂が実現するまでは、退職金算定の基準となる本俸を昭和五三年度のそれに凍結することと取り決められた。
(4) 昭和五四年一二月発行の損保調査時報により、一審被告会社を含む損保一八社について、勤続期間三〇年の退職者に支給する退職金の金額をみると、一審被告会社は、部長が二二三九万七〇〇〇円で、最高額の東京海上(三七三一万円)から数えて一四位、課長代理が二一一九万円(副部長、課長も同額)で、最高額の日産火災(二六九八万二〇〇〇円)から数えて一〇位であつた。
(5) 昭和四六年一〇月一日改訂の退職金規定と、昭和五四年度以降は退職金算定の基準となる本俸を昭和五三年度のそれに凍結するとの労使間の合意に従い、昭和五八年七月一一日に定年退職した一審原告の退職金額を算定すると、昭和五三年度の一審原告の本俸二八万二八〇〇円に七一を乗じた二〇〇七万八八〇〇円となるところ、本件労働協約及び本件就業規則に従つて算定した退職金額一八五〇万四〇〇〇円は、右金額を一五七万四八〇〇円下回ることになる。
以上の各事実に照らして考えると、一審被告会社においては、本件労働協約が締結され、本件就業規則が制定された昭和五八年七月当時において、昭和四六年一〇月一日改訂の退職金規定に従い、かつ、退職金算定の基準となる本俸を昭和五三年度のそれに凍結するとの労使間合意に基づいて算定された金額を上回るような金額の退職金を支払うことは極力抑制すべき必要性があつたことは肯認することができるのであるが、他方、右のようにして算定された金額を更に下回る退職金額としなければならないような必要性を肯認するに足りる事実関係を見いだすことはできない。
そして、一審原告は、前記のとおり本件労働協約の締結と同時に定年退職となるものであつて、本件労働協約による退職金規定の改訂の後に更に勤務を継続し、その間における退職金算定の基準となる給与額の上昇により、支給率の改訂による減少分を補うことができる余地は皆無であることをも合わせ考えると、前記認定の代償金支払の点を考慮しても、本件労働協約及び本件就業規則は、一審原告に対する退職金額を、昭和四六年一〇月一日改訂の旧退職金規定に基づく退職金額である前記金二〇〇七万八八〇〇円を下回る金額に切り下げる部分に関する限り、これを一審原告に適用することを不当とすべき特段の事情があり、また、当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を欠くものというべきである。
3 そうすると、一審原告は、昭和五八年七月一一日に一審被告会社を定年退職したことに伴い、一審被告会社から金二〇〇七万八八〇〇円の退職金の支払を受け得るものであるところ、一審被告主張の抗弁4の事実(一審被告が一審原告に退職金一八五〇万四〇〇〇円を支払つた事実)は、当事者間に争いがないから、一審原告の一審被告に対する退職金請求は、金一五七万四八〇〇円及びこれに対する弁済期の後である平成元年八月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当であり、その余は失当である。
第三 よつて、一審原告の一審被告に対する、当審において拡張、追加した請求を含む各請求は、一審被告との労働契約に基づく給与等一三二万五二二八円及び退職金一五七万四八〇〇円の合計金二九〇万〇〇二八円並びに右給与等一三二万五二二八円に対する昭和六一年一〇月七日から、右退職金一五七万四八〇〇円に対する平成元年八月一日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきであり、一審原告の本件控訴は一部理由があるから、一審原告の控訴に基づき、原判決を右のとおり変更し、一審被告の控訴は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥平守男 裁判官 石井義明 裁判官牧弘二は、転補につき、署名、押印することができない。裁判長裁判官 奥平守男)